CROSSFIRE HURRICAINE

ローリング・ストーンズ結成50周年に作られたドキュメンタリー作品である。
ストーンズは結成以来、いくつもの危機的状況を乗り越えて、2012年の当作品の作成時にも活動を続けていた。そして2019年の現在も北米ツアーの真っ最中である。そんな、老いとは無縁のロックンロールの神、ローリング・ストーンズの物語を、メンバーの肉声、ドキュメンタリー映像、ライブ映像をバランスよく織り交ぜて、時系列に沿うエキサイティングな構成で描いている。
ブライアン・ジョーンズの死、オルタモントの悲劇、南仏への移住、ミック・テイラーの脱退、キースの逮捕…など、波乱に満ちたバンドの節目に、当時のインタビューと、2012年現在のインタビューを取り混ぜている。脱退したビル・ワイマンやミック・テイラーの現在の肉声もあり、ファンにとって喜ばしい限りだ。中でも、理性的に自身が置かれていた状況を分析するミック・ジャガーの対話は思慮深く、強い印象を与える。
以下に、概要と感想を記す。個人ブログの性質上、作品を追いながら補足や感想などを加えているので叙述の内容が全て作品にあるものでは無い。

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Straw Dogs

人は誰しも暴力的衝動を内に秘めているのだろうか。どんなに穏やかな人でも、どんなに知性的な人でも。あるいは人は皆暴力的であるからこそ、抑制する術としての知性があるのだとしたら。
暴力性を全く持たない聖人のような人物は稀であり、自分自身を含む多くの人間は否定できない暴力性を多少なりとも持っている。きっかけさえあれば暴発する塊を。

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衝撃的な作品であった。ストーリーも衝撃的な内容であり、緻密ですべてのシーンに無駄がない構成も衝撃である。これほどに完成度の高い作品は多くはない。そして俳優の演技も。ダスティン・ホフマンは迫真の演技で、嫌味なところはあるが穏やかで知的な男が狂っていく姿に、怒りとかなしみを伴いつつ観る者は自らを投影するだろう。
閉鎖された田舎の人間関係のいやらしさと、それによって発火した主人公の暴力性。身近な経験に重ねてしまうと、そんな解釈をしてこの作品を理解した気分になる。閉鎖的コミュニティのいやらしさはよく知っているから。
だが、単なる田舎のコミュニティに暮らすだけでは、悲惨な暴力に巻き込まれることはない。対立に至る要素が暴力を生んだ。その対立とは、アメリカとイギリス、進歩的な都会と旧弊な田舎、インテリの主人公と知性のない地元の男たち、女性に対して理解と対話で愛を示す主人公と暴力と性的魅力という力で押さえつける地元の男…、等、作品に登場するさまざまな要素による軋轢である。だが後者を育てた環境が舞台となったイギリスの田舎にあるのだとしたら、主人公夫婦が暮らしていたアメリカの都心部との対立が、悲劇的結末を生んだ軸といえるのだろう。加えて、男と女、夫と妻の対立も構造に含まれているのではないかと思えた。

以下、解釈込みの概要と感想を記す。解釈に違和感を抱いたとしても素人の意見と読み流していただければ幸い。(ネタバレを多く含みますからご注意ください)

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